Learninghacker

知的で創造的な刺激を求めて

『深く、速く、考える。』が伝える深速思考の重要性とアクティブ・ラーニングとの関係。


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学校教育の現場で現在,そしてこれからもっと叫ばれるは

いわゆる「確かな学力*1」の中でも課題解決能力のための

思考力・判断力・表現力の育成である。

そして,

そのような課題の発見と解決に向けて主体的・協同的に学ぶ学習をしましょう,

と言っているのがいわゆるアクティブ・ラーニングと呼ばれる

最近巷で話題の言葉である*2

 

けれど,とどのつまり,課題の発見と解決ってどうやんのよ?というのが

最大の難点である。

そもそも課題とは何か,どうやって提起するのか,その構造はどうなっているのか

分からなければ,解決できないか明後日な方向の解決しか生まれないし,

それが明確にならなければ,ある教科内容に対する指導方法も決まって来ない。

 

そして,もうひとつ忘れてはいけないのは,

それが実際の社会に出たとき,どのように役に立つのか,という問題だ。

 

今回紹介する『深く、速く、考える。』は,決してアクティブ・ラーニングについて

書かれた本ではないけれど,

その一部は現在学校教育によって子どもに身につけさせたい能力と類似する点がある。

実際の社会で求められている能力とのを関係に着目することで

教育関係者ではない一般的な人が学校の目指している方向性を理解するのを

助けるだろう。 

 

『深い知識』は知識同士の統合された記憶。

著者こと稲垣公夫さんはいわゆるトヨタ式のナレッジマジメント法「A3報告書」を

鍛える教育プログラムを開発し,実際に製造業のコンサルティングを

手がけている(プロフィールより)。

 

トヨタ式の「A3報告書」については割と有名で,

これに関する本もいくつか出ているので詳細はそちらを参照するとして

こちらの『深く、速く、考える。』で紹介されているのは,

その「A3報告書」の効果を上げるために,問題の本質を見抜く能力の育成の

重要性である。

 

その中でも特に重要なのは「深く考える力」である。

これをトレーニングすることで「速く」考えることができるというのである。

これからのビジネスパーソンには、これまで重宝されてきた、既知の知識を素早く吸収する「効率的に学ぶ力」よりも、新しい知識をつくる「深く考える力」のほうがいっそう求められるようになるのです。

そして,もうひとつ重要なこととしてあげているのは

「理解する」とは何かということ。

〝理解する〟とは、新しいことがらを、自分がすでに知っていることがらと結びつけることなのです。

(中略)

新しいことを、すでに知っている多くのことと結びつけられれば「深い理解」になります。逆に、少ないこととしか結びつけられなければ「浅い理解」に留まります。

深く考えるためには,物事や事物を深く理解していなければならないという。

高度な仕事といえば「専門性の高い思考」を要する仕事だと考えられがちですが、「深い思考」のほうが重要な条件だということです。

この本で示されている「深速思考」はロジカルシンキングで

問題の構造からその本質を見抜き,

さらに因果関係やアナロジーを用いて創造的な問題解決をするということを

目指しているらしい。

そしてその具体例として,

「鳥貴族」「大戸屋」「丸亀製麺」などの名の知れた企業のビジネスモデルを

紹介している。

 

深速思考は日常で鍛えられる。

トヨタを始め,具体的な企業のビジネスモデルを読みながら

『深く、速く、考える。』とはどういうことなのかを知るのは面白い。

文部科学省の「アクティブ・ラーニング」などという単語を出されるより

よほど身近で,しかもそれが将来役に立つことが実感できる。

 

けれど,その深速思考とはどのように身につけられるのか?

稲垣さん曰く,それは

深く考える能力を磨くためには、難しいことをたまに深く考えるより、常に日常的なことを深く考えるクセをつけるほうが有効です。

なんだそうだ。

 

この言葉にはとても共感するところがある。

「考える」という行為を,私たちは難しく捉えすぎている節があるし,

とても身近な問題も,問題構造を明らかにすることで

深く捉えることができる。

 

考えるという行為を因果関係として捉えたり

その解決のために抽象化したりアナロジーを使ったりというのは

あくまで問題解決の一部であって全てではないけれど,

この本で言いたいことの一部はいわゆる「アクティブ・ラーニング」の

目指しているものの本質ととてもマッチする。

 

知識と経験を結びつけて知識を統合し,

新たな知識を創造する*3

言葉にするととても複雑そうに思えることが,

この本では大変身近な問題を例に取り上げることで

特別ではないが重要であることを教えてくれる。

 

おわりに:学校教育関係者も一読する価値があるビジネス本

易しい文体で書かれているので,ビジネスパーソンだけでなく

高校生や大学生でも読みやすい良本であるが,

あえてこの本は学校教育関係者も一読する価値があるだろう。

なぜ「課題の発見と解決に向けて主体的・協同的に学ぶ学習」が必要なのか,

その一端の理解を深める上で参考になるだろう。

 

こちらの記事もどうぞ 

*1:学校教育法第30条第2項では「確かな学力」を「基礎的な知識及び技能」,「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」という三要素としている。

*2:中央教育審議会(2014)「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」Retrieved from http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1353440.htm.

*3:だいぶざっくりとした説明だが,このあたりについては白水始(2010)「協調学習と授業」高垣マユミ編『授業デザインの最前線Ⅱ』国立教育政策研究所編(2016)「資質・能力[理論編]」(国研ライブラリー)などを読むと理解が深まる。