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【ほぼ別世界】教職員の労働環境問題を語る前に知っておきたい「学校」世界の3つの要素。


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学校教育の諸問題というのは不思議なもので,

学校関係者も,そうでない人も,とかく関心をもっている人の多いトピックである。

一言何か言ってやりたいと思っている人も多い。

きっとそれは,日本人の大多数が「学校」という場所にいた経験があり,

その経験は他の多くの人とも共有されている,と思っているからだろう。

 

けれど,実際には学校の経験は共有できないくらい多種多彩である。

もし周りに出身都道府県の違う人が近くにいたならば

たとえば「給食」について話してみてほしい。

それだけでも驚くほど,学校文化が違うことにすぐに気づくだろう。

 

2016年以降は,「学校の労働環境問題(主に長時間労働)」も

ホットな話題の一つであり,

それと共に語られることが多いのが「部活動指導」の問題である。

 

労働環境問題を語る風潮の中にも,

実は多種多様に形成されている「学校」という特殊な世界の実情が

一般的な議論の中では留意されていないように思われる。

それは,実際に今学校の教師をしている人ですら,気をつける必要がある。

 

私自身,部活動指導を含む長時間労働で新人の時過労死ラインを軽く超え

結果的に心身ともに体調を崩し,退職に追い込まれた経験者の一人である。

しかしその後もしつこく教職を続け,

気がついたら,小中高,国公私立,そして夜間の定時制まで

都道府県まで跨いで仕事をする機会が得られた。

 

そんな私だからこそ,あえて伝えたいのは

教職員の労働環境の問題を語る前に,「学校」という世界が

次に示す3つの要素によって,いかに違うのか,

そしてこの問題がいかに共有されていないのか,ということである。

 

その重要な3つの要素とは,以下の通りである。

  1. 校種の違い
  2. 国公私立の違い
  3. 地域の違い

 

1.  校種の違い

「学校」と一言言っても色々ある。

大学,大学校,高等専門学校,専門学校といった高等教育や各種学校を除いて

あなたは「学校」と呼ばれるものを,いくつ言えるだろうか?

 

正解は

  • 幼稚園
  • 小学校
  • 中学校
  • 義務教育学校
  • 高等学校
  • 中等教育学校
  • 特別支援学校

である(学校教育法第1条)。

ちなみに保育園(正確には保育所)は学校ではないので注意。

 

義務教育学校・中等教育学校

上記7つで特に聞きなれないのが「義務教育学校」と「中等教育学校」だろう。

前者は小学校と中学校の一体化させた学校,

後者は中学校と高等学校を一体化させた学校である。

「一貫校」とは制度的に異なるが,やっていることは似ている。

「一貫校」にしろ「教育学校」にしろ

校舎という施設にも一体型と分離型があり,形態は様々である。

 

中学校・高等学校

「労働環境問題」,長時間労働で最も注目されているのは特に中学校である。

中学校の長時間労働の原因でよく挙がるのが「部活動指導」なので,

この2つの問題は同一のものとして取り上げられがちである。

このような実態があるので,少し乱暴な言い方をすれば

中学校の先生からすれば,小学校の先生は部活動指導がないor少なくて

羨ましいと思っている人は少なくないはずだ。

 

小学校

このような話を聞いた小学校の先生はムカッとするに違いない。

小学校の先生は確かに部活動指導にかかる時間は短いが

その代わりに多いのが保護者対応である。

しかも小学校は下は6歳,上は12歳と幅広い年齢の子どもがおり,

年齢によって起こる問題も大きく変わる。

さらに発達障害,外国人児童の対応も中学校や高等学校よりも複雑であり

それが時間のかかる要因となっている節が大きい。

このような状況の中で,次期学習指導要領では

外国語活動,プログラミング教育,道徳科が待ち構えている。

 

多彩な要求に対して,教科担任の導入や分業化によって

解決すればいいじゃないか,と思われるかもしれないが,

学級担任制は小学生の発達過程を考慮すると簡単に否定できるものではない。

仮に分業化するにしても,個々の学校の実情を鑑みて議論しなければ

机上の空論となってしまうだろう。

 

特別支援学校

校種の違いで,最後に取り上げたいのは「特別支援学校」。

ここには,通常学級とは異なる特別支援学級も加えてもいいかもしれない。

こちらも部活動指導はほとんどないorないが,

児童・生徒の障害の種類やその度合い

(軽度発達障害,視覚,聴覚,知的,肢体,病弱など),

その複合など様々であるから,

ひとえに特別支援学校といっても,かなり異なる。

したがって,教職員の労働環境問題といっても

「長時間労働」だけを物差しに労働環境を語るのは危うい。

 

2. 国公私立の違い

公立の先生は「地方公務員法」

次に教職員の労働環境問題を語る上で,国公私立の違いは見逃せない。

労働の根拠となる法律がそもそも違うのである。

 

今,世の中のトピックとして挙がる教員の長時間労働は

暗黙の了解なのか知らないが,基本的には公立の先生(教育公務員)を

指している場合が多いように思われる。

 

公務員なので,労働の根拠となる法律は「地方公務員法」。

人事,任用,評価,給与,勤務時間その他諸々がこの法律に準ずることになる。

公務員である以上,それが一般職だろうが特別職だろうが関係なく,

「全体の奉仕者として公共の利益のために勤務」しなければならない。

(地方公務員法第30条)

 

皮肉な言い方をすれば,権利の一部を制限する代わりにクビにはならないけど

市民の税金で食っていけるんだから,その分奉仕してね,ということになる。

分かりやすい例を言えば,

大災害が起きれば,公立の学校の先生は勤務校にすぐさま出向き

被災者支援に乗り出さなければならない。

例え家族と離れても,である。

 

加えて、給特法によって「教職調整額」という給料の4%を追加支給する代わりに

原則,時間外勤務手当(残業代)は払われないのが教育公務員。

例外は「特勤4項目」と呼ばれ,

「校外学習などの実習」「修学旅行などの学校行事」「職員会議」「緊急時」のみ。

 

何時間働いても基本的には給与は変わらず,

部活動指導の手当も雀の涙ほどしかなく,

管理職もそうではない教職員も,時間外労働というものに疎くなりがちである。

この問題に関心がある教職員ならば,

職場にいる「疎い同僚たち」が具体的に頭に浮かぶに違いない。

 

国立や私立の先生は「労働基準法」

しかし,国立や私立は状況が全く違う。

国立は,正確には国立大学法人の附属学校にあたるので公務員ではない。

私立もまた学校法人なので,公務員ではない。

したがって,労働の根拠となる法律は「労働基準法」であるから,

基本的には一般企業と同じルール下である。

学校が避難場所に指定されていなければ,

災害時に避難場所運営に携わる「義務」もない。

ただし,大学附属学校は国家公務員の名残も若干残っている感じがあるので

雰囲気としてはまだ公立っぽいところがある。

 

労働基準法の元なので,

附属や私立の先生には,先ほどの「教職調整額」の話は基本的に当てはまらない。

附属の先生は,公立の先生が「異動」すると一般的に思われがちだが

制度上「異動」ではなく「派遣」の扱い。

あと,国立大学法人の財務的な課題のあおりを受けているため

附属の学校に「派遣」されて,給料がむしろ減ってしまうこともしばしば。

附属学校の特質上,教育実践研究や公開授業も行わなければならないので

見た目は華やかでもお財布事情はちょっと・・・ということに。

 

忘れてはならない「組合」の存在

「地方公務員法」と「労働基準法」の違いでもう一つチェックしたいのは

「組合」の問題である。

 

先に私立の先生の話からすると,

私立の学校の中には「労働組合」を結成しているところがある。

通常の企業と同じく,団体交渉権を有し,労働環境の改善を交渉することができる。

(だたし「できる」からといって「する」とは限らない)

もし学校勤務の長時間労働や時間外勤務に不服であり,なんとかしたいと思えば

労働組合を通して実際になんらかのアクションを起こすことができる。

(逆に言えば,1人で不服を唱えれば,クビが飛ぶ可能性もある)。

 

一方,公立の先生は公務員なので「労働組合」を結成することはできないが

その代わりに職員団体は結成できる。

言わずとしれた「日教組」がそれである。

 

労働組合が勤務時間内に活動すれば「不当労働行為」と見なされるように

公立の先生も給与を受けながら職員団体のための業務はできない。

(地方公務員法第56条)

 

ただし,教職員組合の組織率(先生がどれくらい組合に属しているか)は

都道府県によってかなり状況が異なる。

ざっくりいうと,都会ほど組織率は低くなる傾向があり(3割程度)

地方ほど組織率が高くなる傾向がある(下手をするとほぼ100%)。

そして,組合に入っているかどうかは,実際のところ人事にも影響を及ぼす。

前者のような地域では,組合に入った先生は管理職にはなれなかったり,

後者のような地域では,組合に入っていなければ管理職になれなかったり。

 

また,組織率が高ければ学校の労働環境が良いかと言えば

そんなことはない。

例えば愛知県や静岡県などは組織率が100%に近いが,

管理職だって元をたどれば教職員組合の一員(幹部かも)。

そういう状況では「出る杭は打たれる」環境が整っているので

表面上活動していても,労働環境が目に見えて改善するような

自浄作用が起こりにくいのは想像しやすい。

 

3. 地域の違い

「2. 国公私立の違い」で教職員組合の組織率の違いを挙げたように

学校文化や学校の労働環境には地域差もかなり多い。

 

地域の差をさらに紐解くと,

都道府県や政令指定都市の差(教育委員会のスタンスの微妙な違い)から,

世帯所得の差,地形,気候,過去の部落差別などが

教職員の労働時間や内容に少しずつ違った影響を与えている。

 

例えば,中学校の部活動と気候の関係を見てみると,

積雪のない地域では冬でも屋外の部活動が盛んになりやすく,

盛んなので自然と強豪にもなりやすい(野球,サッカー,テニス,陸上など)。

そういった地域では部活動指導の時間が増えやすい。

逆も然りで,豪雪地域ではそもそも屋外スポーツが冬にできず,

室内にしてもあまり長く活動すると児童・生徒が雪で帰宅できなくなったりするので

部活動指導にかかる時間は大きくならない。

 

全国学力調査で全国1位の秋田県などは,豪雪地域の典型例で

読書量と正の相関があることも有名な話。

子どもも穏やかで生徒指導も少なめ。家族と過ごす時間も長い。

一方,都会などは核家族やひとり親世帯が多くなり

生徒指導にかかる時間も増える。

そのため,必然的に部活動(特に運動部)に打ち込ませることで

生徒指導上の問題を軽減しようとする傾向がある。

そういう学校では体育科の教師が生徒指導でも大活躍するので

自ずと発言力も高くなりやすい。

 

おわりに:教職員の労働環境問題を要素から掘り下げてみる必要性

学校の先生の多くは多忙感を感じている,と言われている。

しかし,以上3つの要素を鑑みれば,

多忙感など,実際には中身が全く異なっており共有などされていないことが

想像できるだろう。

 

少なくとも,教職員の労働環境問題,長時間労働,部活動指導の問題は

日本全国の問題として考えても解決できない。

労働環境を構成する要素を掘り下げ,比較しながら

特定の校種や地域に焦点を当てて,

本当に多忙で苦しんでいる先生たちに救済の手を差し伸べて

いかなければならないだろうと私は感じている。

 

また,教職員でない一般の方でこのような話題に関心がある人ならば

一般論からは一旦距離を置いて,まず自分の住んでいる地域の学校の状況はどうか

教育委員会の取り組みはどうかなど,

日本の教育ではなく,すぐ近くの教育現場に目を向けてみてほしい。

 

最後に,今回私は3つの要素として「校種」「国公私立」「地域」を挙げたが

まだ他にも見落としている要素があるかもしれない。

もし気づかれた方がいたら,ぜひ気軽にご指摘いただければ幸いである。

 

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