最近ニュースでも「遺伝子」や「ゲノム編集」という言葉を
頻繁に耳にするようになってきた。
(一応)生物の教員である私も最新ニュースに関心があり,
このブログでもこれまで「ゲノム編集」について書籍などは紹介してきた。
一方,近年大変身近になりつつある「遺伝子分析」については
実はあまり私も調べてこなかったフシがある。
遺伝子分析といえば,1990年代に「ゲノムプロジェクト」という
ヒトのDNAの全塩基配列約30億個を調べるという途方も無い計画があり
約12年経った2003年に完了している。
しかし今や,次世代シーケンサーの登場により
12年かかっていた分析は今ではたった1日しかかからない。
そんなわけで最近はAmazonのようなネットショッピングでも
遺伝子分析キットが買えるほど実は身近になっているのである。
そこで,今回は教材研究(?)も兼ねて
試しにAmazonでアルコール感受性遺伝子分析キットを買ってみた。
キットの中に何が入っているのか,調べてみた。
Amazonで気軽に遺伝子分析キットが買えてしまう時代。
今回Amazonで買った遺伝子分析キットは
『GENOTYPIST アルコール感受性遺伝子分析キット』という
5000円くらいのキット。
![f:id:uru3:20161122212058j:plain f:id:uru3:20161122212058j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212058.jpg)
他にもAmazonにはいろんな遺伝子分析キットが売られており
調べる遺伝子の数によって5000円から30000円まで幅があるようだ。
で,今回買ったアルコール感受性遺伝子分析キットというのは何かと言うと,
端的にいえば「どれくらいお酒が強いか?」を調べるもの。
ちなみに私はお酒がめっぽう弱く,ここ数年全く飲んでいないので
被験体になるにはちょうど良い,と考えたわけである。
![f:id:uru3:20161122212059j:plain f:id:uru3:20161122212059j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212059.jpg)
調べる遺伝子はADH1B遺伝子とALDH2遺伝子の2つ。
ここで少し,飲んだ後のお酒の行方について学習しよう。
私たちがお酒を飲むと,アルコール(正確にはエタノール)が体の中に取り込まれる。
しかし,アルコールは体にとっては毒なので,その毒を分解して壊そうとする。
アルコールの分解は2段階あって,
「アルコール(毒)→アルデヒド(毒)→酢酸」の順に進む。
お酒に強い人はこの分解を体がうまく行える人で,
逆にお酒の弱い人は,この2段階の分解のどちらか,または両方が
うまくいかない人なのである。
しかも,このアルコールの分解に関わる酵素タンパク質を作る遺伝子は
「SNP(スニップ)」と呼ばれる遺伝子多型が存在する。
簡単にいえば,人によって遺伝子の一部がほんのちょっと違うのである。
ちなみに,タンパク質はアミノ酸が一列に並んだもので,
アミノ酸の並び方によってタンパク質の形がちょっとずつ変わる。
形が変わると機能や性質まで変わってしまう。
Amazonで買った遺伝子分析キットで調べる遺伝子の場合,
ADH1B遺伝子はアルコールをアルデヒドに分解する酵素を作る遺伝子で,
47番目のアミノ酸がアルギニンの人とヒスチジンの人がいる。
ALDH2遺伝子はアルデヒドを酢酸に分解する酵素を作る遺伝子で,
487番目のアミノ酸がグルタミン酸の人とリシンの人がいる。
前者のアミノ酸を持っている人ほど素早く解毒できるので
お酒が強い人,というわけだ。
遺伝子分析キットを開けてみた!
さて,予習はこの辺にして,
実際に遺伝子分析キットを開けてみることに!
![f:id:uru3:20161122212101j:plain f:id:uru3:20161122212101j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212101.jpg)
中から出てきたものはこんなもの。
![f:id:uru3:20161122212102j:plain f:id:uru3:20161122212102j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212102.jpg)
明らかに分析にしようしそうなものは,綿棒とプラスチックの試験管。
![f:id:uru3:20161122212103j:plain f:id:uru3:20161122212103j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212103.jpg)
キットの使い方はいたって簡単なようだ。
まず,口をよくうがいで綺麗にした後
口腔上皮細胞(口の中でほっぺたの裏側に当たる場所)を含んだ粘膜を
綿棒でこすってとる。
それを試験管ケースに入れて,書類とともに郵送。
後日,結果が届くというものだ。
![f:id:uru3:20161122212100j:plain f:id:uru3:20161122212100j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212100.jpg)
呆気ないほど簡単である。
調べられる遺伝子は2つだけだけど,実際の操作はとても簡単なようだ。
ちなみに箱の中には返信用封筒と3枚の文書が同封されていた。
一つは説明書,もう一つは同意書である。
細胞といえども,DNAは「究極の個人情報」なので
同意書にはびっしりと小さな字が書かれている。
もちろんちゃんと読まなければならない。
![f:id:uru3:20161122212104j:plain f:id:uru3:20161122212104j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212104.jpg)
あと1枚は申込み用記入シート。
個人情報について記入しなければならないが,
未成年の場合は保護者の同意も必要のようだ。
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この申込書の下には気になる一言も書かれている。
「オーダーメイド医療実現のための遺伝子研究へのご協力について」である。
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この文面から考えるに,
提供したDNAがただのアルコール感受性検査に使われるだけでなく,
他の塩基配列もSNPの研究に使われる可能性はとても高い。
そう考えると,5000円は少し高いような気がしてくる。
被験体として情報を提供するのだから,
もっと割安にするか,むしろお金をもらう側でもいいんじゃないかと思うのだが,
その辺りは色々な規制があるに違いない。
ちなみに申込書の裏にはアンケートがある。
![f:id:uru3:20161122212107j:plain f:id:uru3:20161122212107j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212107.jpg)
おわりに:実際に分析キットを送ってみたい!
教材研究,という名の興味本心で買ったキット。
このまま教材としてとっておいても良いが,
せっかく買ったので,実際にほっぺたの裏っかわの細胞を送って
結果を見てみたいものである。
これを書いている時点ではまだ実行していないが,
分析結果については,追々また報告したい。
乞うご期待!
![f:id:uru3:20161122212058j:plain f:id:uru3:20161122212058j:plain](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uru3/20161122/20161122212058.jpg)