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働き方改革を考える上で『1940年体制』(増補版)は日本経済の今を知る良い素材になる


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こんにち、uru(@uru_)です。

2015年、電通での新入社員の過労自殺をきっかけに働き方改革が叫ばれているのはすでに皆さんの知るところでしょうが、一方で自分の職場に目を向けると、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、すぐには労働環境が改善されない歯痒さを持たれている方も多いことでしょう。

かく言う私もこれまで何度か職場が変わったことがありますが、私の場合は学校が職場だったので、時間外労働ひとつ取ってもひどいものです。そして同じように簡単には解決できない、むしろさらに悪化しているのではと思うことすらしばしばありました。根の深い問題であることは言わずもがなです。

しかし、それを失望する必要はありません。単に働き方の問題は根の深い問題だと言うだけなのですから。

むしろ私たちが今すぐできることといえば、なぜ今のような日本の働き方が生まれたのか? そして、なぜ今、働き方改革が必要だと言われているのか? 問題の本質を探ってみることではないでしょうか。

それを知る上で今回ご紹介したいのが『1940年体制』と言う本。

この本の主張を端的に述べるなら、今の日本の働き方は古くからの伝統なのではなく、1940年前後、つまり第2次世界大戦中に生まれたと言うのです。

おそらく私たちは社会の授業で、戦後日本の輝かしい経済発展を学習したのでしょう。しかしこの本は戦後の日本が今の社会・企業体質・働き方を作ったと言う一般論に対して反論を述べている、なかなか刺激的な内容です。

1940年前後に何があったのか?

そもそも私がこの本を知ったきっかけは、ライフネット生命の出口治明さんの著書『人生を面白くする 本物の教養』です。こちらの本もすごくお勧めです。

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終始柔らかい口調で書かれている(と私は感じた)『人生を面白くする 本物の教養』とは打って変わって『1940年体制』(増補版)を書かれた経済学者の野口悠紀雄先生はとても刺激的な言葉が発せられています。

現在の日本における最大の問題は、金融機関や経済官庁というよりは、むしろ民間企業(とくに、大企業)にあると考えられる。金融制度や経済官庁の面で戦時経済体制的性格が消滅し、あるいは薄れてゆくなかで、日本企業が持つ戦時経済的な体質は、むしろ強化されていると見ることができるのである。

1995年に初めて世に出、2002年に新版が出た本がさらに改訂・増補され2010年に出版された本ですが、2010年増補版のまえがきに上記の記述が登場します。2010年といえばリーマンショック後、東日本大震災前、小惑星探査機はやぶさがサンプルを採取した年と言うのが私の記憶。しかし2010年に書かれたという文脈を知らなければ、働き方改革が強く叫ばれた2017年の記述だと勘違いしてしまうかもしれません。

引用を読むと明らかなように、野口先生がおっしゃっているポイントは、

  1. 問題は民間企業である。
  2. 民間企業が戦時経済的体質を持っている。
  3. 戦時経済的体質は強化されている。

の3つに絞られるでしょう。

特に興味深いのが「戦時経済的体質」という記述。これこそ1940年前後,つまり第2次世界大戦中に築かれたものだというのです。

本書で描きたいと思うのは、この建物に象徴される日本の姿である。つまり、「現在の日本経済を構成する主要な要素は、戦時期に作られた」という仮説である。私は、日本の経済体制はいまだに戦時体制であることを指摘し、それを「一九四〇年体制」と名付ける。

さらにこの「戦時経済的体質」については次のように説明されています。

第一は、それまでの日本の制度と異質のものが、この時期に作られたことである。日本型企業、間接金融中心の金融システム、直接税中心の税体系、中央集権的財政制度など、日本経済の特質と考えられているものは、もともと日本にはなかったものであり、戦時経済の要請に応えるために人為的に導入されたものである(「高い貯蓄率」という日本経済のマクロ的特徴も、四〇年体制以降のものである)。

(中略)

第二の意味は、それらが戦後に連続したことである。これは、終戦時に大きな不連続があったとする戦後史の正統的な見方には反するものだ。

冒頭でも述べたように、私たちが受けた社会科の学習では,終戦後に日本国憲法を始めとする多くのシステムが新しく民主的になったというのが一般論でしょうが、そこに一石を投じ、事実を関連づけて日本型システムの原点を客観的に推論しているのです。

おわりに:働き方に関する文化の見方が変わる!

私は経済学の専門ではないので、「1940年体制」が本当に存在したのかそれを批判的に読み取るには力不足でしたが、それでも指摘されている内容は客観的かつ論理的で、今叫ばれている「働き方改革」の本質を考える良い素材になります。また、経済に関する日本の歴史の見方も変わることでしょう。

どんなに「常識」だと思っていたことにもどこかに始まりがあり、始まったものは、必ず終わる。それが悪しき「常識」であれば社会全体で終止符を打つ必要があるでしょうし、社会だけでなく歴史や文化・心理を鑑みて、日本特有の「働き方」について深く考える視点を『1940年体制』は与えてくれると私は思いました。