教育

高校理科室のナトリウム爆発事故に関する報道に謎が多すぎる件

高校理科室のナトリウム爆発事故に関する報道に謎が多すぎる件

こんにちは、uru(@uru_)です。今回は気になったニュースを1つ紹介します。それは、朝日新聞が2016年6月23日に報じたナトリウム爆発事故。その新聞の内容には不可解な点が多く,理解に困っているというのが今日の話です。

報道によれば、23日神奈川県の高校で男子教諭(61) がナトリウムを保存する際に爆発したとのこと。生徒はこの事故についてTwitterで「地響きがやばかった」とツイートしています。

同じ理科を担当する者としては、事故起こすとTwitterで広がるというのもかなり怖い話です。ただ、ここは冷静になった今回は朝日新聞の報道について批判的に読んでみます。

「指にケガ」=「地響き」の謎

ここで、朝日新聞デジタルで報道された内容を引用します。

23日午前10時半ごろ、神奈川県開成町吉田島の県立吉田島総合高校の理科室で、男性教諭(61)が実験で使ったナトリウムを保存しようとしていたところ、爆発が起きた。ナトリウムが入っていたガラス瓶が割れ、教諭が指にけがをした。

学校によると、ナトリウムは水と反応して爆発するが、教諭が空気に触れないようにガラス瓶に灯油を入れていて、灯油に含まれた水分がナトリウムに反応した可能性があるという。当時は2時間目が終わったところで、生徒のほとんどは理科室を出ていたという。

ツイッターには「地響きがやばかった」などと、生徒のものとみられる書き込みが相次いだ。

(朝日新聞)

これを読んで真っ先に思ったことといえば、「指にケガ」と「地響き」では事故の程度について辻褄が合わないということです。生徒がその理科室にいたのか、それともそれ以外の部屋か廊下にいたかもよるが、仮に理科室にいて、かつだいぶ誇張表現になっていたとしても、「指にケガ」と「地響き」ではちょっと釣り合わない。

一体どの程度の金属ナトリウムを実験に使っていたのかがよくわかりません。

「ナトリウムは石油に入れて保存」のキホン

ところで、ナトリウムやカリウム、リチウムといった周期表の第1族元素、アルカリ金属は「石油に入れて保存」がキホンです。これは高校化学や危険物第3類の参考書などには必ず書いてあります。

ナトリウムなどのアルカリ金属は還元作用が非常に強く、水と爆発的に反応します。そして水に溶けると水溶液は名前の通りアルカリ性になります。ナトリウムが水に溶けたら水酸化ナトリウム水溶液という具合です。

ここでいう「爆発的に反応」というのは比喩でもなんでもなく、少量でもホントに爆発するので扱いには十分注意が必要です(YouTubeに動画あるので,関心がある人は自己責任で検索してみると良いでしょう)。

ここで、もう一度記事の内容を振り返ってみます。

記事では「ナトリウムが入っていたガラス瓶が割れ」たと書いてあり、教諭が怪我した箇所が「指」と表現されていることから推察すると、おそらくそのガラス瓶が500mLも入るような大きなものではなく、手のひらに収まるくらいの小瓶であった可能性が高いです。というか、そもそも理科室に単体ナトリウムを大量に保存していることが常識的には考えられないですから(ただしそれだと「地響き」ほどの爆発にはならない)。

しかし「教諭が空気に触れないようガラス瓶に灯油を入れていて」とあります。主語が「教諭が」となっていることがこれまたよく分かりません。

通常、ナトリウムは業者から購入した時点ですでに石油の中に入っています。しかしここでは「教諭が」と書いてあるので、教諭が購入時の瓶とは異なる別の瓶に石油をわざわざ入れてナトリウムを保存していたとも読み取れます。

さらに「灯油に含まれた水分がナトリウムに反応した可能性があるという」とあります。いわゆる「不純灯油」というヤツで、例えばガソリンスタンドで買った灯油の入ったポリタンクのふたが閉まっていなかったり、霜が降りたりすると灯油に水分が混じってしまうことがあるのは確かです。もし教諭が自ら入手した灯油を使ったとしたら、水が混ざっていてもおかしくはないでしょう。

もし水が灯油に混じった場合、油の方が比重が小さいので、油は浮き、水が底に沈みます。

ここに金属ナトリウムを入れるとどうなるか。

単純に考えて、比重は灯油0.80<ナトリウム0.97<水1.00の順になるため、ナトリウムは油に入れると沈んで水と接触します。そうなれば爆発して瓶が破裂する可能性は十分あります。もし教諭が購入時とは別の瓶を使用し、その瓶の管理が不十分であれば、灯油に水分が混入し、爆発に至った可能性が高いです。

けれど、仮にそうだったとしたら、最初に実験で使うナトリウムをどこから出したのでしょうか?

実験後に戻した瓶で爆発したのだとしたら、実験前にナトリウムが入っていた瓶と実験後の瓶が同じであるはずがありません。しかし、ここでわざわざ別の瓶を使う理由が分か利ません。というより、授業でわざわざナトリウムの爆発を見せるのであれば、そもそも「余らせない」ように少量取り出す方がよほど自然なのですが…。

おわりに:おかしいのは教諭か、それとも記事か

仮に朝日新聞の記事を信じるとするのであれば、教諭のナトリウムに関する管理方法に不自然な点があると考えられるので。2度と起こさないためにも詳細を調べる必要があります。

けれど、今回読んだ記事の内容記述にそもそも誤りがある場合は、矛盾点をいくら考えたところで真実は分かりません。報道する側も、最低限の科学的知識を照合した上で

報じるようにしてもらいたいものです。

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uru
日常生活と科学をむすぶ、学びのデザイナー。新しいガジェットやギアが大好き。好きなことは読書、バイク、旅、温泉、アニメ鑑賞その他いろいろ。生活をよりシンプルに心地よいものへ変えていきたい。

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